コラム#03 思い続けることの大切さ

2020年11月25日
コラム

私が最初に鉄の酸化反応を止めようとガラス瓶の中に錆びた鉄の釘を入れ、乾電池に繋いだ銅線を釘の先端に触れさせる実験を行ったのは53年前の、私が9才の時だったと記憶している。何故、乾電池を使用したのか?誰かが教えてくれたわけでもなく、又、自分自身で勉強したわけでもなく、ただそう思ったからやったと記憶している。それからずっと潜在的に鉄の酸化を止めるにはどうしたら良いかを考え続けていたのではと思う。私が大学に入って「化学」を専攻したのも潜在的な昔からの思いが影響したのではと思う。大学を卒業して入社した「大日本印刷」では、プラスチック材料の開発及び応用を研究する部署に配属され、そこで入社して1年目の23才の時に開発した食品の酸化防止高温殺菌プラスチック容器は手で簡単に蓋を剥がして開けられる「イージーオープン容器」として世界的特許製品となった。約40年経過した現在でも、数多くの加熱殺菌した食品の酸化防止容器として蓋を折って開けるコーヒー・紅茶用ミルクのポーションパック、及びジャム、豆腐、ハム、ソーセージや玉子用加熱殺菌保存イージーオープン容器として世界中で使用されている。この発明がされる前までのイージーオープン容器は、紙製のコップと紙製の蓋のシール面にワックスを塗布し、ワックスを熱で溶かしてシールするアイスクリーム容器しか世の中にはなかった。当然、ワックスは耐熱性が低く、加熱殺菌が不可能であった事と、紙製の容器は通気性があり食品が酸化劣化する事を防ぐことができなかった。特に乳製品は酸化劣化が激しく、ミルクのポーションパックとしての使用は不可能であった。その意味では、本発明は食品を加熱殺菌し、酸化を防ぎ、長期保存を可能にしたイージーオープン容器を実現した画期的な物であった。蓋を折って剥がして開けることと、シール材としてのプラスチックの組み合わせは現在でもこれに代わるものは開発されていない。蓋と容器の組み合わせには2通り有り、1つは油を含む食品用で容器はポリプロピレン(PP)をベースとし、蓋側の熱シール面はエチレン基の一つの水素を金属であるアルミ(Al)や亜鉛(Zn)に置き換えたポリエチレンの変性体のフィルムを用いた組合せ、他の1つは油類を含まない食品用でコストを安くした組合せで、容器のベースに高密度ポリエチレンに無機物の炭酸カルシウムを混入した材料と、蓋側の熱シール面にエチレンとアセテートの重合物であるポリビニルアセテート(EVA)を使用したもので、いずれも熱シールする機械の温度が20~30℃ばらついても、同じ様な強度でシールされ、大人から子供の手の力で小さな容器でも蓋の角を折って剥し、開ける事ができる、当時としては画期的な発明だった。その翌年の24才の時には、油性食品であるハム・ソーセージなどの食品の酸化を防止できる真空スキンパックの基本的原理を開発し、その機械の試作及びそれに使用するフィルムの開発を行い、これも世界的特許となった。

この技術は、当時大日本印刷と提携していた大森機械工業株式会社に無償で付与され、大森社長と私との共同作業で実際にハム、ソーセージメーカーの工場で使用される真空スキン包装機として完成した。いずれの特許に対しても、私は当時の大日本印刷より特許1件につき1,000円の褒賞金を頂戴しただけである。この真空包装機は日本を含む世界中の

ハム、ソーセージメーカーで今日でも使用されている。この真空スキン包装機も食品を酸化から守る酸化防止を目的としているが、やはり私の思いは別にあったのだと思う。